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事業承継などの自社株の節税対策、銀行提案だから安心か?

昨今、事業承継、とくに中小企業における事業承継の問題が取り上げられてきています。スムーズに承継できるよう各種制度も整備されつつありますが、どうしても税務が事業承継のボトルネックとなりがちです。自社株の評価額が高くなっており、その場合は子などの承継者が自社株を承継(贈与・譲渡・相続など)することが困難になります。

そこで、自社株の評価額を下げる対策をあれこれ講じるのですが、昨日のニュース(産経WEST 2016/8/29)は、銀行提案の策が国税に否認され、さらには国税不服審判所でも納税者側の主張は認められず、ついには裁判の場で争うことになっているとのことです。しかも、そういう事例が「増えている」とのことです。

自社株の相続対策に悩む中小企業の経営者が、取引銀行から提案された別会社へ株を売却するなどの「節税策」を実行したところ、税務署に認められずに課税され・・・
税務訴訟を多く手がける都内の弁護士によると、こうして下落させた株価を国税当局が認めず更正処分(追徴課税)を行うケースが昨年ごろから徐々に増えているという。

その内容は「持ち株会社方式」と呼ばれるもので、単純に自社株を持ち株会社化にして直接保有から間接保有に切り替えて、自社株の評価額を下げる策です。

銀行が提案する対策ですので、当たり前ですが、銀行からの借入が絡むスキームとなります。支払利息も発生します。

節税策として提案することは、取引銀行にとっても数々のメリットが生まれる。P社に多額の融資を実行でき利息収入が入るほか、Bさんの手元に残るA社株譲渡代金を生命保険や投資信託などに振り向けさせることで、販売手数料も得られる。

なぜ、このような問題になるか、あくまでも私見ですが、この記事にあるように銀行や税理士の説明不足が原因にあるのは間違いないのですが、ではなぜ説明不足になるのかを考えると、お客様に不要な商品・サービスをセールストークを駆使して、一律に「売り抜けて、利益を獲得する」ことがその根底にあるものと私は考えています。メガバンクや大手生保や大手不動産会社などでは、転勤などによって数年で担当が変わることも、売り抜けしやすい土壌となっている感があります。

今後の裁判所での判断を待つわけですが、すでにそこまで進んでしまった時点で、お客さまを守る見地からは、この策は失敗と言わざるを得ません。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

節税になる?短期前払費用の落とし穴に要注意

巷でよく聞く節税策(正確には「課税の繰延」にとどまるのですが・・・)のうち、短期前払費用があります。節税策としての常套句のひとつです。

この短期前払費用は、無条件に認められるものではなく、その前払費用の質および量の両面から重要性が問われますので、注意が必要となります。会計上も税務上も、重要性の判断基準は異なるとされていますが、いづれにしても重要性は問われます。

法人税基本通達2-2-14の取扱いは、法人が一定の計算基準を継続して行う会計処理で、その計算基準を行うことに相当の理由があり、重要性の原則に照らして課税上さしたる弊害がないと認められる場合にその適用があるものであり、費用収益の対応関係を覆してまでもその適用を認める趣旨のものではなく、また、もっぱら租税回避の目的で不要不急の前払いを行ったようなものについては、適用することは相当でないと解されている(平成11年12月24日裁決)

 

従いまして、「課税の繰延」を目的に短期前払費用を採用する場合は、

  • 相当の理由があるか?
  • 課税上さしたる弊害がないか?

を吟味する必要があります。

 

なお、あくまでも参考にしかなりませんが、会計上における考え方として、

たとえ毎期末の計上額がほぼ一定であっても,その企業の営業の性質上重要な営業費用に属するもの,例えば,海運業者における借船料や船体保険料,百貨店業者等における店舗貸借料,自動車運送業者における車体保険料や賠償責任保険料,金融業における支払利息割引料などについては,原則どおりに厳密な期間対応計算を要し,重要性の原則は適用されないというのが監査上ほぼ一致した見解のようである(昭和43.5.13日本公認会計士協会監査委員会意見「期間損益通達の監査上の取扱いについて」参照)。引用元

とのことですので、「質」における重要性を判定する際の参考になります。

また、参考とした上記の会計上の考え方のさらなる参考にしかなりませんが、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」では、

第85条第2項
(…略…)主要な費目とは(…略…)その金額が販売費及び一般管理費の合計額の百分の十を超える費目をいう。

とされていますので、「量」における一つの判断指標としては参考になるものだと考えます。

 

当然ですが、例えば等質等量・定質定量といった前払費用のそもそもの要件を満たしていない単なる「費用の前払につきましては前払費用ではなく「前払金」であり、その前払金には短期前払金という制度はありません。