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誤りやすい社宅の税務 – 通達の算式によらない独自の計算方法

税務において、役員や使用人が負担する「通常の賃貸料の額」を計算する場合、通常は通達に従って計算することになります。多くの場合が近隣の実際の家賃相場よりも低い負担で済むことになりますが、逆に高くなることもあります。

その場合、通達によらない独自の計算方法、例えば不動産鑑定士による鑑定結果や、近隣の複数の不動産業者からの収集データなど、一般的に合理的と考えられる方法で算出しても、税務上問題ないのでしょうか?

この疑問について、税務通信2015/05/25 (No.3361) 32頁「社宅家賃の経済的利益の取扱いについて」において、課税庁出身の伊東博之先生は、独自の計算方法を採用するのは任意だが、通達の算式によらない場合は税務上の「通常の賃貸料の額」には該当せず、通達は最低負担額を定めたものであるため、その額以上の賃料を徴収していなければ「課税されるというに過ぎません」との見解です。

裁判実務も、

裁判官は極めて少数の例外を除いて、通達を中心に税務訴訟を進行させている。

とのこと(鳥飼総合法律事務所)ですから、通達の算式結果が相場より高いからといってオリジナルな計算方法で算出することは、税務上相当に高いリスクを伴うことになります。

(参考)
伊東博之
国税庁法人課税課課長補佐(源泉税担当)、千葉東税務署副署長(法人税担当)、国税不服審判所審判官、東京国税局調査第一部特別国税調査官、同第二部統括国税調査官、東京国税不服審判所管理課長、東京国税局総務部次長、麻布税務署長等を歴任し、現在税理士
 

 

 

 
 

 

 

 

誤りやすい社宅の税務 – 住宅用地等の特例の適用”前”か”後”か。固定資産税課税標準額とは…

役員又は使用人に社宅を貸与した場合には、通達において、家屋又は敷地の固定資産税の課税標準額を基礎として、通常の賃貸料の額を計算することとされていますが、この社宅に係る「通常の賃貸料の額を計算する場合における固定資産税の課税標準額」について、異なる解釈を見聞きしますので、あらためて私見を記しておきたいと思います。

住宅用地等の固定資産税課税標準額は、住宅用地等に対する課税標準の特例が適用されますので、税務における社宅に係る「通常の賃貸料の額」を計算する場合に、この特例を適用するのか、適用しないのか、判断に迷うこととなります。

通達においては、この特例の扱いについて、特に留意されていません。社宅に係る通達の制定が昭和26年、固定資産税における課税標準の特例の創設が昭和48年、その後長い年数が経過していますが、課税実務において、この特例を適用するのか適用しないのか、どちらが正解なのでしょうか。正解と断定できないまでも、実務における通説・多数説・有力説はどちらなのでしょうか。

国税庁の質疑応答では、

社宅を貸与した場合の「通常の賃貸料の額」の計算の基礎となる「固定資産税の課税標準額」とは、どのようなものですか。

という、せっかくの具体的な照会に対する回答で、この特例への言及は忘れられて(避けられて?)いますので、残念ながら参考にはなりえません。
https://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/shitsugi/gensen/03/04.htm

ここでの回答内容では、あくまでも【固定資産税の課税標準額】について地方税法で規定されている内容に沿って、一般的で当たり前の説明がされるにとどまり、さらに「原則として…」とあるように、同じく地方税法で「特例として」規定されている住宅用地等に対する課税標準の特例には特に言及していません。

家屋については、国税庁の回答内容の「原則として…」のとおり、「固定資産税の課税標準額」=「固定資産課税台帳に登録された価格」となります。他方、住宅用地等の場合は「特例として」規定されているわけで、この部分については国税庁の回答内容は説明不足ということになります。

従いまして、社宅に係る通常の賃貸料の額を計算する場合における「住宅用地等に対する課税標準の特例の適用」の可否について、課税庁の公式な見解はこの質疑応答からはわかりません。

そこで、課税庁側の人間が著した文献が、私的な著作物に過ぎず公の見解の表示に当たらないものの、参考になります。そこでは、3分の1といった住宅用地等に対する課税標準の特例を適用したの固定資産税課税標準額を基として差し支えない旨、その理由と共に解説されています。(冨永賢一「源泉所得税 現物給与をめぐる税務〈平成23年版〉」185頁,大蔵財務協会)

従いまして、この解釈によれば、税務における社宅に係る「通常の賃貸料の額を計算する場合における固定資産税の課税標準額」についてですが、住宅用地等に対する課税標準の特例を適用した【後】課税標準額、すなわち「課税台帳に登録された価格(固定資産税評価額)」ではなく、通達の文言どおり「固定資産税課税標準額」にて算出すればよいこととなります。

上記内容とは異なる私的な見解を示す税理士も散見されますが、そもそも、なぜ通達に「固定資産課税台帳に登録された価格」と規定されていないのか、疑問です。

税務の問題としては、給与課税(源泉所得税)に関する内容であることから、この著者の経歴(下記参照)から判断すると、 特例適用【後】で計算することが、課税実務においては定着していると言えるのではないでしょうか。

(参考)
冨永賢一
国税庁法人税課源泉所得税監理係長、同法人税課源泉所得税審理係長、浅草税務署法人課税部門統括官、国税庁審理室企画専門官、同審理室課長補佐、杉並税務署法人担当副署長、税務大学校研究部教授、国税不服審判所沖縄事務所国税審判官、東京国税局調査部統括国税調査官を経て、東京国税不服審判所国税審判官(2011年9月時点)